「むかしつくった作品」

   先日のドールハウスショウのとき
  「むかしお預かりした写真をお返しに参りました」
   と、おっしゃるお客さまから、封筒に入った一冊のフォトブックを手渡された。
   そのフォトブックには「文明の砦」と題するストラクチャー作品が、多角度的に捉えられた、11枚の紙焼き写真が収まっていた。
   見たとたん
  「うわぁ〜 確にこんな作品、むかしつくったことがあるなぁ〜」
   と、すっかり忘れていたその作品の、つくったときの光景までもが、鮮明によみがえった。
   そのお客さまは、1996年に開催された渋谷パルコでの拙展会場で、それらの写真を、わたしから預かったとおっしゃったが、なぜ彼女が写真を預かったのか、そして一体誰が撮った写真なのか、当時デジカメはまだなく、わたしはカメラを持っていなかった。従ってわたしが撮った写真でないことは確かである。
   それらの疑問を尋ねようとしたとき、もうその客はいなかった。
   受け取った封筒には、写真のほかに、わたし宛の短いメッセージと、コンビニの商品券が同封されていたが、住所もメアドも記されていなかった。
   そのお客さま・岡村治子さんに、この場を借りてお礼を申し上げます。
   26年ものあいだ、わたしの大切な作品の写真をお預かりいただきましたこと、誠にありがとうございました。
   下が岡村さんからご返却いただいた写真です。
   大変なつかしい、ひさしぶりに見るわたしの作品です。
   記念に掲載させていただきました。

 1995年制作の「文明の砦」(1/80)。
本作は渋谷パルコでの拙展の折に展示したあと伊勢丹展でも展示したが、その翌年、1997年に開催した仙台展の会場で売れてしまい、いまはもうない。その後渋谷パルコの自分の教室で、これと似たような作品をもう一度つくったことがあったが、それもどこかで売れてしまった。いま見ても見劣りのしない作品であるが、それは、その後まったく進歩しなかったことの裏返しでもある。