「スギちゃんのこと」

 元生徒スギちゃん(推定60歳)は北海道滝川市の出身だ。家業の材木屋をたたんで、奥さんとふたりで東京へ出てきたのは2004年ごろのことだった。茅場町のマンションに居を構え、しばらくぶらぶらしていたが、やがてぼくの教室へ通うようになり、2009年ごろまで、生徒だった。
 東京へ来て数年たったころ、彼のマンションの一角の、ちょっとしたスペースで、手持ちのフィギュアを捌くため「カヤバ」というオモチャ屋を開業し、国へ帰るまでつづけた。だが店を始めるまではヒマだったので、いろんなことを手伝ってくれた。2004年には「伊豆ドールガーデン」で開催した拙展の搬入搬出を手伝ってくれたし、またある年には米ニューパルツでの拙展を手伝ってくれた。そしてあるときはNYの友人宅に保管してあった作品をシカゴのビショップショー会場まで、一緒に車で運んだこともあった。等々。
 そんな彼だったが、2009年に教室を辞めたあとは地元へ帰り、滝川市の外れに40坪ほどのアトリエを建て、そこを拠点に、「男のドォルハウス」の作者として、いまは多方面で活躍している。その一環として2018年には、北海道初となる「北海道ドールハウス展」を、滝川のお隣りの砂川市で開催し、誰も来ないだろうとタカを括っていたところ、なんと3000人もの客が押し寄せ、ど肝を抜かれた。そして今年9月にも「砂川ミニチュア・ドールハウスショー」を開催するそうだ。本来ならわたしも出場せねばならぬところだが、急に行けなくなり「申し訳ない」と伝えると
 「なら、宣伝してよ‥」
 と言われ、せめて宣伝だけでもさせていただきます。
 下のポスターをご覧ください、スギちゃんのドールハウスショーです。
 ——是非ぜひお出かけください!!!
 9月の北海道はいいですよ。台風がこないので‥。

ぼくの教室の生徒とOBの集まりを「渋谷クラフト倶楽部」という。スギちゃんも「渋クラ」会員だが、国へ帰ったあと、彼は札幌でクラフト教室の講師を始め、現地でも「倶楽部」を立ち上げたいとおっしゃった。そこで本家「渋クラ」会長の許可を得て「札幌クラフト倶楽部」が結成された。よってスギちゃんは「渋クラ」と「札クラ」の両方をかけもつ、ただひとりの元生徒である。