「あ、折れてる!」

   テレビドラマの背景に使いたいということで、4月16日の夜、知り合いの美術監督A氏が、倉庫から3点の作品を持ち出した。すなわち大型ストラクチャー作品「風に吹かれて」1点と、アートインボックス作品の2点を、その日の夜、築地本願寺のすぐ近くにある撮影現場まで運び、ドラマのセットの中にディスプレーしたのだった。
   こういった搬入時には往々にして破損をまねくことがあり、なのでわたしも立ち合い、慎重に作業し、終わったのは深夜11時だった。
 「くれぐれも電線と電柱には気をつけてください‥」
   最後にA氏にそうお願いし、帰宅した。
   それから約3週間経って、いつの間にか作品は築地からお台場の倉庫へと移されていた。結局拙作は撮影には使われなかったらしく、わたしの知らぬまにこちらへ運ばれていた。
 ある日A氏から「作品を返却したいのでお台場まで来てください」と連絡があり、5月16日の午後、A氏とともに現場に赴くと、すでにテレビ局の方々が作品「風に吹かれて」のそばで待っていた。と言っても作品はダンボールのつい立てみたいなもので覆われ、中はまったく見えない。
 我々の到着を確認すると
「さあ、では、始めましょう!」
 と、テレビ局の方々が、バリバリっとダンボールのカバーを外した。
 すると「風に吹かれて」が現れた。
 出て来た作品を見たトタン、わたしは
 「あ!折れてる!!」
 と叫び、折れた電信柱を指さした。
    —–以後、次回‥。

 破損した作品(上)は、現在は、狭苦しい作業場の、わたしの目の前に置いてあり、正直ジャマでしょうがない。しかし修理代のことを含めて、A氏とのあいだに、まだいろいろと決着がついていないことがらがあり、修理の手はまったく加えられずにいる。旗艦モスクワがやられちゃったみたいなものである。どうしてこんなことになっちゃったのか、だれにもわからない。