「Aさんのこと」

   前回の続き。
   わたしの倉庫から「風に吹かれて」を持ち出した美術監督のA氏は、元フジテレビの社員で、15年くらい前にひょんなことから知り合った。当時はホリエモンブームだったので、若いIT経営者を主人公にしたドラマが企画され、その番組にわたしの作品をディスプレーしたいと言ってくれたのがA氏だった。作品貸し出しの期間や、貸し出し料などが決まり、やる気満々でいたところ突如ホリエモンが逮捕され、企画がボツになった。
   その後A氏は、キムタク主演の「HERO」に拙作を使ってくれた。テレ朝の昼ドラマ「やすらぎの郷」や、「やすらぎの刻」にも使ってくれた。そして今回は、AbemaTV配信の「ANIMALS」というドラマに使う予定で、倉庫から3点の作品を、箱に入った状態で持ち出したのだった。
   現場ではまず作品(風に吹かれて)を箱出しし、セットの中央に配置して、壁ぎわにアートインボックスを配するというA氏のプラン通り、わたしも立ち合ってディスプレーした。
   しかしその翌朝ドラマの監督がやってきて拙作3点は不要と言い出したため、作品はテレコムセンターの倉庫へ移されることになった。
   わたしが常々「箱に収納する際は立ち合わせてください」とお願いしていたからか、作品は箱には入れず、むき出しの状態で倉庫へと運ばれ、到着後段ボールのカバーで覆われた。
   電柱はこの運搬の過程で折れたと推定する。
   このたびの破損について彼らは重々詫びてくれた。修理代を負担するとも言ってくれた。しかし作品は、撮影には使われなかったので、貸し出し料を値引きしてほしいとも言われた。
   ともあれ、今般の支払いに関して、わたしはかなりアブナイ局面に立たされた。使われなかった上に壊されてしまったのだから容易じゃない。トラブルになっても不思議じゃない状況である。
   暗澹たる気持ちで過ごしていると、A氏からうれしいメールが届いた。内容は、ほぼわたし(芳賀)の原案通りの請求書(リース料&修理代)をテレビ局宛に提出せよという指示書であった。彼がテレビ局とのあいだに何らかのはなしをつけてくれたのだろう。
   Aさんありがとう!
   これを読んでいるかもしれぬA氏に御礼を申し上げます。
   ——あとは修理をがんばります。

上はつい先日の毎日新聞に掲載されたA氏紹介の記事です。2022年5月7日(土)付けの夕刊だが、読めるかなあ〜。