「驚きました」

 講師歴26年のあいだには外国籍の生徒も数名いた。
 最初は2009年、ニューヨークからやってきたアメリカ人のチーフンさん(当時の推定33才)だった。彼は約一ヶ月東京に滞在し、その間ほぼ毎日ぼくのスタジオへやってきて、単独講座を受けながら「水場エレジー」という作品(1/80)を仕上げた。
 2014年には、渋谷区在住のブラジル人女性サラさん(当時の推定30才)が、ひとことも日本語を話さぬまま、われわれと一緒に学び、故国に帰るまでの二年間に、目の覚めるような「孤独の世界」(1/80)や、他にいくつかの作品を仕上げた。
 そして2017年からは台湾のヤンさん(当時推定35才)が定期的に来日するようになり、ときには東京に長期滞在し、その間毎日ぼくのスタジオへ通い、受講と自習によって「小屋」(1/80)や「孤独の世界」をつくり、そして更なる作品を制作中に突然コロナ禍となり、以後来日が叶わなくなっている。
 また、コロナ禍の2021年には、ショウという中国人女性(推定26才)が「ブーランジェリー制作教室」へ参加したことがあったが、新婚ホヤホヤだった彼女はすぐにベビー誕生となり、ほどなく教室からリタイアした。等々。
 やたらと長い前置きになってしまったが、今年の7月から、また、新たな外国籍生徒が一名、われわれと一緒に、孤独の世界・制作教室に参加している。そして彼は、午後の鹿骨教室へも、途中参加ながら、急遽加わるなど、ヤル気まんまんである。彼の名前はオウ・コクさん。日本語が堪能な、大宮在住の中国人(推定33才)である。やたらと背が高い(191c)が、いたって温厚な性格なので、以後お見知り置きのほどお願いいたします。
 わざわざ外国のワークショップに参加するような外国人は、よっぽど腕に自信があるんだと思う。冒頭に挙げた方々も、みな概してスキルが高かった。そんな中でもオウさんは特別だ。
 下の写真を見てほしい。
 拙作「午後の鹿骨」のオウ・バージョン(未完成)である。
 本作の場合、わたしの作品では壁がモルタルだったが、そこを、オウさんはすべて下見板で覆い、まったく別のムードの作品に仕上げている。大した才能である。驚きました。

オウさんのinstagram:  wanghu_tokyo
オウさんのFacebook:  王鵠
サラさんのInstagram:   sarahwero
サラさんのInstagram:   sarahwero.atelier
サラさんのInstagram:   a.sarahwero
サラさんのFacebook:   Sarah Wero
ヤンさんのFacebook:   Miniatures Christine CY
ショウさんのFacebook:  鍾莹

「Gallery ICHIYOH」

 急に涼しくなってまいりました。
 そんなタイミングで、久しぶりにギャラリーの宣伝をさせていただきます。
 はがいちようのミニミュージアム「Gallery ICHIYOH」では、ただいま作品展を開催中です。(下にリストアップした計23点の代表作を一挙にご覧いただくことができます。)
 住所: 東京都北区中里3-23-22/午前10:00〜午後6:00/入場料100円/予めご予約の上、ぜひご来場ください。
 https://ichiyoh-haga.com/private-gallery.html

 *現在展示中の作品
 「錠前屋のルネはレジスタンスの仲間」
 「DANONE/1944年夏」
 「デカルト通り48番地」
 「サンドニの夜」
 「ルイブランの青画廊」
 「エイミー&マドレーン」
 「中古屋ブェイセイル」
 「人形の鬘(かつら)を売る店」
 「カルベ酒を飲む女」
 「白い石炭商人」
 「キャフェ・ル・マルソワン」
 「セーヌ・フルール」
 「散髪屋チャーリー」
 「炭酸入りのレモネード」
 「寒い朝」
 「ブーランジェリー/B」
 「東家(あづまや)」
 「孤独の世界」
 「ジュール通りのガラクタ置き場」
 「ドラゴン通り118番地」
 「青春の東池袋」
 「ピエールの荷馬車」
 「いちようの作業場」

 アクセス: 山手線田端駅北口から歩10分。あるいは駅前のコミニティーバス・バス停(田端文士村記念館前にあります)からバスに乗り二つ目の停留場「エコー広場前」で下車すると歩1分です。ギャラリーの隣には築63年になる非常にボロい木造建築「いちようのスタジオ」があり、そちらを見ることもできます。
 

「目のこと」

 白内障の治療のため先週左目の手術をした。といっても日帰り手術だったので、朝9時に病院へ行って、11時にはもう家へ戻っていた。帰りはもちろん眼帯で。
 手術時間は全体で約30分。まずは特殊な椅子に座らされ、短い説明があり、そのあと目の部分だけに穴の空いた白い布を顔に被せられ、麻酔の液をぶっかけられ、等々の準備時間を差し引くと、正味、実際のオペは15分ぐらいだった。まったく痛くはなかったが、赤い玉や緑の玉がうごめく様が眼中に見えて、薄気味悪かった。
 以前から人間ドックの折などに、たびたび目のことは指摘されていたので、いつかやらなきゃならんことはわかっていた。もともと人間は70や80まで生きられるように設計されておらず、この年になれば、自然に、目や、歯や、耳がイカれてくる。
 術後約一週間が経ったが、経過が良好かどうかと問われれば、まだよくわからない。加えて近々右目もやらねばならぬ。そのあとは、しばらくの回復期間をみなければならぬだろう。
 そんなわけで、この月はほとんど仕事を入れていない。
 東家教室やその他の教室の皆さんにとっては迷惑なことでしょうが、よろしくご理解のほどお願い申し上げます。(自習に来て部屋を使うことはぜんぜん構いません。ですがお相手はできないかもしれません。)

写真は手術した部屋ではないが、待ち時間にパチリと撮った眼科の処置室。これをFacebookに投稿したところ、想像をはるかに超えるリアクションがあった。こんな地味な写真に354件のいいねと、なんと120件以上もの励ましのメッセージが、世界中から届いたのには驚いた。癒されました。

「ミヤケさんからのメール」

「石の家」って知ってますよね、フジテレビの「北の国から」というドラマの中で田中邦衛が暮らしていた富良野(北海道)の家だ。2004年、その家の模型展示物を制作してほしいとフジから依頼され、作品は翌年の春、完成した。(縮尺15分の1)。
 完成後、作品はただちにお台場のフジテレビ本社の25階にある球体の中へと運ばれ、約6ヶ月、そこに展示された。その後同社の「湾岸スタジオ」へと移され、こんどはそちらの1階展示場で約1年間展示されていた。しかしその後、社内の配置転換によって展示スペースがなくなってしまい、作品はどこかに仕舞い込まれ、あとは、なにかのイベントの折に顔を見せる程度で、ふだん見ることはなくなっていた。
 本作を制作した当時、フジ側の担当者は同番組の美術監督を務めたU氏であったが、10年ほど前にU氏が定年退職されてから以降、フジとは特にパイプがなく、作品がどうなっているのか、さっぱりわからなかった。
 そしたらである。先週元生徒ミヤケ・タカオ氏から下のような内容のメールが届いた。(ミヤケ氏はU氏と仲が良い。)
 「本日U氏から驚くべき情報がもたらされました。北海道でU氏が定宿にしている富良野のLA VISTAホテルへ泊まりに行ったところ、一階ロビーに石の家の模型展示物が置いてあってびっくりしたそうです。はがさんにも伝えてほしい、とのことでした。」
 このメールには数枚の写真が添付されていて、見ると正にわたしがつくった作品だった。
 U氏はさぞびっくりしたことだろう。本作を制作中だった18年前、彼はわたしのスタジオを訪れて制作の過程を見ているし、完成後、それをスタジオから運び出し、車でお台場まで運んだのも彼だった。だからこの作品はU氏にとって極めて見慣れたものだったハズ。それが、いつも行く馴染みのホテルのロビーに、ひょっこり置いてあったのだから…。
 ミヤケ・メールによるとLA VISTAは「北の国から」の資料館があったところに建てられたホテルだそうで、「あるべきところに戻って来たかって感じです‼︎」と、結ばれていた。

U氏が撮ったと思われる「石の家」の写真。
天然温泉・紫雲の湯/LA VISTA/富良野ヒルズ1階ロビーにて。
〒076-0026北海道富良野市朝日町5-14
電話: 0167-23-8666
https://www.hotespa.net/hotels/furano/
 

「作品展めぐり」

 コロナが一段落したせいもあってか作品展ラッシュが起こっている。知らない人の展ならスルーもいいが、義理ある人たちの作品展へは何をおいても行かねばならず、このところ駆けずり回っている。
 23日の金曜日には文京区のシビックホールまで出かけ「東京ソリッドモデルクラブ」の、オールハンドメイドの飛行機模型を鑑賞。クラブの重鎮手柴さんらの歓迎を受けた。
 翌週の月曜日(25日)には宇都宮でマンタムさんたちの「DECADENCE展」を鑑賞。マンタムさんに義理はないが、本展を開催した「悠日ギャラリー」には多大な恩義があり、ここで開催するひさびさの美術展とあって、わざわざ出かけた。ギャラリーオーナーの柏崎健次氏は数年前に軽い脳梗塞を発症し、以後元気がないと聞き、当初は非常に心配だった。ところがお会いしてみると以前とあまり変わりのない様子に一安心。(下の写真)。
 おなじ日に宇都宮から有楽町へと移動。東京交通会館の一階ギャラリーで開催中の「2023自動車アート7人展」会場ヘとすべり込んだ。本展のクオリティーの高さは毎度のことながらコロナ禍のため今回は5年ぶりの開催だとの説明を受け、主催者のひとり大内画伯から歓迎を受けた。(10/1日まで開催)。
 以上までが先週末からの行動だったが、まだ始まっていない下の3展にも顔出しする予定なのでしばらくは結構忙しい。

*与偶人形作品展(死神の唸り、牙を剥く)
 @銀座ヴァニラ画廊(9/28から10/9)

*歌田年&矢沢俊吾 2人展
 @新宿の「Bar十月」にて(10/2から10/13)

*第14回ドールハウス共同作品展
 @池袋オレンジギャラリー(10/9から10/8日)

《追記》本当は元生徒山脇隆氏の個展「冥界の隣人」へ真っ先に行くつもりだったのだが、ついうっかり忘れているうちに終了してしまった。山脇さんごめんなさい。

そういえば、長いこと作品をつくっていなかったジオラマ界の巨匠・金子辰也氏も、ひさしぶりに個展開催を目指して、鋭意新作を製作中との情報がある。これもぜひ見にいかねばなりません。

「お知らせ」

 今度の日曜日(9/24日)に「第6次・ブーランジェリー制作教室」の初回講座が開催されます。

 カガミヒロコさん
 ムラタミホさん
 イノウエエリさん
 ナガタナオコさん
 ハヤシユミさん
 オカモトミキさん
 トウダテリナさん
 ナカジマユウさん
 (準不同)

 今のところ上の8名の参加が予定されていますが、この中で、何らかの事情で急に来れなくなったという方がいらっしゃれば至急連絡をください。
 特に問題がなければ、上のみなさんは、当日(24日)の午後1時半に、はがいちようの駒込スタジオにお集まりください。(できるだけラフな服装で、道具や材料など、なにも持って来なくてかまいません。)
 質問があれば遠慮なくどうぞ。
 下の写真は、このグループの制作課題「ブーランジェリー」(縮尺: 12分の1)です。

ちなみに、将来は自分もこの教室に参加したい…とお考えの諸兄がいらっしゃれば、連絡をください。

「スゴイ人!!」

 彫刻家の山田康雄先生をはじめておみかけしたのは南宇都宮の悠日カフェだった。
 東武宇都宮線、南宇都宮駅の駅前に、大谷石で出来たふるい米蔵倉庫が7〜8棟ならんで建っている。これを利用した、アートギャラリーや、カフェや、カルチャー教室などを運営している「悠日」という会社がある。そこからの依頼で山田先生は月一回「悠日カルチャー彫刻教室」の講師を勤めたあと、東京へ帰る直前のひとときを悠日カフェで過ごしていた。
 実はわたしも何回かここで作品展を開催したことがあり、この日はなにかの打ち合わせで訪れていた。やがて午後6時を回り、そろそろ帰ろうかとギャラリーからカフェへ足を伸ばすと、そこに山田先生の姿があった。
 「はじめまして、はがいちようです」
  と、声をかけると
 「あ、はがさん、作品、見て、知ってますよ‥」
 と、会話がはじまり、先生は拙作をたいそう褒めてくれた。やがて「今から車で東京まで帰りますが、あなたも乗って行きませんか?」と親切なご提案をいただいた。電車で来ていたわたしにとって渡りに舟と思ったが、あとのはなしを聞いて諦めた。というのは、先生は大の高速嫌いで、東京まですべて一般道を走るという。よって到着が夜中の12時を回ることもしばしばある、とおっしゃったからだ。
 以上は2008年ごろのはなし。
 当時山田先生が75歳、わたしが60歳だった。
 その後大田区の南六郷にある山田先生のアトリエへ3度訪問し、うち一回は「渋谷クラフト倶楽部」のみなさんとドドッと押しかけたので、先生の顔を知っている読者(クラブ員)も多いだろう。そのころの先生は冬から早春にかけては東京のアトリエで創作し、春から秋にかけては、栃木県那須郡の山荘=木の美術館にこもり、炊事洗濯、掃除や買い物をひとりでこなし、早朝から深夜まで休みなく創作に励んでいた。
 したがってコロナ禍前までは、わたしは毎年必ず一回「木の美術館」を訪れていた。しかしコロナが始まって以降しばらく先生の顔を見ていない。なにしろ先方は90歳。SNSはやらずスマホは持たない。何回かハガキで挨拶状を出したが返事がなく、非常に心配していた。いてもたってもいられず、先週大雨の中を練馬のシゲちゃんと那須の現場まで見に行った。
 で、結局、先生は、そこにいました!!!
 突然の来客だったはずなのに、山荘=美術館の内部は、工作室を含めて、どこもかしこも掃き清められ、チリひとつ落ちていなかった。(マジです)。
 そしてサラッとこうおっしゃった。
 「コロナ禍でヒマになったので、骨壷にハマってしまい、気がついたら500個も出来てしまいましたよ」
 だそうだ。(下の写真)。

この仕事を始めてから、実際に会ったことがある人物で、すごいと思ったアーチストが2人いるが、山田康雄先生はそのうちの1人。生き方もさることながら、作品がこれまたスゴイ。だがそこは文字では伝えられないので、じかに作品を見るしかない。下が木の美術館のリンクだが、だいたいいつも閉館中らしいので、行っても入れないことが多いかも、です。https://www.asoview.com/base/153431/