「頼みます、伊東屋さん‥」

 一年ほど前、銀座で展示中の伊東屋を見に行ったとき、作品にカビが生えているのを発見。黒かったハズの店内の床は、カビが繁殖して、ほぼ真っ白になり、それは手前の石畳のほうへもかすかに進んでいた。
 このときは、そのことを一階のインフォメーション・デスクで説明し、ハケで払うよう、担当者に伝えてほしいと頼んで帰った。
 それから一年たって、その後どうなったのかと、先日わざわざ銀座まで見に行った。そしたら状況は一年前となんら変わっていなかった。まったくなにも処置されてなくて、かといって症状が広がっているわけでもなかった。だが一度カビ菌がついてしまった以上、いつまた発展に転じるかも知れず、相変わらず心配である。
 カビなんてハケで払えばカンタンに取れるのに、伊東屋の社員は誰もそんなことをやりたがらないのだろう。困ったもんである。担当者に宛てて、手紙でも書いて縷縷説明するしかないのか、放っておくとカビはどんどん拡大し、そのうち作品全体を覆うことになりかねないということを…。(担当者の名前が分からないので、まだ手紙は書いていません)。
 自分の作品「ワンス・アポン・ア・タイム」にも、むかしカビが生えたことがあった。あれよあれよという間に地表のすべてがカビで覆われ、しばらくは、ただ呆然と手をこまねいて放置していたが、あるとき意を決し、それら全部をハケで払ったところ、あっさり元通りの地表に戻り、以後ずっとそれをキープしている。
 いまは正に梅雨。カビのシーズンである。
 もし作品にカビが生えたらハケで払えば簡単に落ちます。
 頼みますよ、伊東屋さん‥。

 
店内部の床はカビでほぼ真っ白だ。手前の石だたみの上にも白い粉のようなものがちらほらと見える。2024/7/5日。