ある日の午後、長い昼寝から覚めて仕事場へ戻ると、見かけぬ若い女性が部屋の真ん中につっ立っていた。
「どしたの ?」って聞いたら、ヘンな日本語が返ってきた。多分中国人なのだろう。彼女は「ギャラリーが見たいです」とだけ言い、それ以外喋らなかった。
「予約メールは ?」
と尋ねたが、返事はない。
悪い人ではなさそうだったので、希望通りギャラリーへお通ししたところ、予想以上に長いこと作品を見ていて、なかなか出てこない。やがて4〜50分が経ったころ、やっと彼女は出てきた。よほどギャラリーが気に入ったのか、さっきよりは打ち解けた表情をしている。
そこでわたしは彼女に、どうしてここを知ったのか、その理由を、英語と日本語のチャンポンで尋ねた。すると驚きの答えが返ってきた。
なんと彼女はGoogleマップのアプリでここを知ったという。
拙宅の最寄り駅はJR山手線田端駅だが、ここにはむかし芥川龍之介が住んでいて、駅前に「田端文士村記念館」という施設がある。彼女はそれを見に田端へ来て、Googleマップで記念館に辿り着き、一通りの展示物を見たあと、同アプリで近隣の施設を検索したところ「ギャラリーICHIYOH」を発見 ! サブタイトルには「入り口から隠れ家感が満載でわくわくします」とあり、写真もいっぱい載っていた。
うちのギャラリーがそんなところで紹介されているなんて、このときはじめて知った。しかも昼間は常に「営業中」と表示されているので、それを見て、彼女は躊躇なくドアを開け、中へ入ってきたようだ。
思えばその一週間ほど前、旧古河庭園でバラを見た帰りだとおっしゃる知らないおじさんが突然入って来て、「ギャラリーを見たい」と言ったことがあったが、あれもそうだったのだと、いまわかった。
いくら暑いからって今後はパンツいっちょじゃいられんなあ。
おちおち散歩にも出かけられん。
ヤバいことになったもんだ。
——みなさん、来る前には、あらかじめ連絡をくださいね。
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