トキワ荘

 トキワ荘に始まりトキワ荘に終わる年になりそうです。本年最後の教室もトキワ荘です。多分年末はトキワ荘を作りながら過ごすことでしょう。そんな中、グミちゃんプロジェクトのよしみつさんが、わざわざこのブログのために、トキワ荘にまつわる記事を書いてくれましたので、少し長いのですが、下に掲載いたします。
 以下よしみつ文です。

 トキワ荘。何の変哲もない、昭和27年に建てられた安普請のアパートである。
 まだ当時は住宅事情が悪く、建材も廃材が使われたともっぱらの噂で、新築当時から廊下を歩くだけでギシギシと音が鳴ったらしい。
 しかも、とっくの昔に取り壊され、今では影も形もない。
 そんな、ほんの30年ばかししか存在しなかったアパートが、幻の梁山泊扱いされているには訳がある。
 アパートが建立されて一年も経たない時に、編集者の世話で若手漫画家が入居する。後の漫画の神様こと手塚治虫である。
 手塚治虫に続いたわけでもないだろうが、その後も寺田ヒロオ、藤子不二雄(後の藤子・F・不二雄、藤子不二雄A)、石ノ森章太郎、赤塚不二夫、つのだじろう、といった若手漫画家のホープが続々入居し、さながら若手漫画家の巣窟の如くになる。
 彼らは若かった。しかし若さだけが取り柄であった。今でこそ伝説となっている面々だが、当時は「明日をも知れぬ」存在でしかなかったのである。
 漫画家になる、これは漫画業界が確立された現今とはまったく意味が異なる。結果的にだが、彼らはパイオニアであり、フロンティアとなった。
 そうなる土壌は、もちろんトキワ荘という空間だからこそ生まれた。お互い切磋琢磨したのは当然として、毎夜のように酒を飲み、馬鹿騒ぎを繰り広げていた。
 それは彼らの若さと「明日をも知れぬ」という境遇抜きには説明できない。
 トキワ荘に居住した漫画家が巨匠になって以降、藤子不二雄Aが描いた「まんが道」などを通じて、トキワ荘は伝説的な存在にまでなりおおせた。しかしその頃にはトキワ荘は取り壊されており、現物を見る夢が叶わないまま時が過ぎた。
 ところが時代の空気感を含めて、まるごと再現したミニチュアが現れた。作者ははがいちよう。彼自身は特別トキワ荘への思い入れはなかったというが、東京出身者として「その昔、どこにでもあった」アパートに自身の思いを託した。
 取材も徹底的にやった。成し遂げたいことが「細部の復元」ではなく「空気感の再現」なのだから当然なのだが、当時の関係者や元居住漫画家の水野英子氏に直接話をうかがうなどして、綿密に「空気感」を煮詰めていった。
 その再現度合いに、多くの「トキワ荘を神聖視する」漫画ファンが狂喜したのは当然で、漫画ファンのみならずジオラマ、ミニチュア関係者をも虜にした。
 2020年に向けて、トキワ荘を実物大で再現する、というプロジェクトが進行中である。もちろんその一翼をはがいちようが担っているといっても過言ではないのだ。

 ———以上、原文のまま。
 ちょっと褒められすぎですが、そのまま掲載いたしました。
 よしみつさんありがとう!

トキワ荘制作中(2007年ごろ)


2016年11月22日