前々回お伝えした「炭酸入りのレモネード」(ガラクタ屋)のリペアーのことだが、思ったよりうまくいった。(下の写真)。
店舗部分をうしろに約5センチほど膨らませ、そこに新たなガラクタ類をつっこんでディスプレーし、LED照明3灯を弱々しく灯した。この弱々しくてところが肝心だ。退廃的で、どこか投げやりなこのガラクタ屋がローソンのように明るくっちゃ興ざめだ。
本体ばかりか、ついでにフレーム(額縁)も直し、イーゼルも、後部のふくらみに合わせてつくり直した。もちろん収納用の木箱も作り直したので、なんだかんだで10日ぐらいかかったが、大満足している。
むかし駆け出しのころ、非常に熱心なファンの方で、毎回拙展に来てくださる紳士がいた。仮にY氏とする。Y氏は有名財閥のご子孫で、奥沢の大きな邸宅に住んでいた。
ある日Y氏から
「家に遊びに来ないか‥」
との電話があり、行ってみると、薄暗い美術部屋に通され、Y氏がコレクションしている美術品の数々を見せてくれた。そのあと、ズラッと美術書が並んだ、日当たりの良い書斎に通され、そこで小一時間、パリに関するはなしを伺った。やがておいとまの時間が訪れ、席を立とうとすると、Y氏は書棚から数冊の美術書を取り出し、参考に、とおっしゃり、荻須高徳画伯(1901~1986)の画集三冊を持ち帰るよう勧めてくれた。
後日、それらの画集の中から、荻須先生の「BRIC-a-BRAC(ガラクタ屋)」と題する油絵を立体作品化したのが本作である。このときは同時に「鍵屋(パリ)」と題する油絵も一緒に立体化し、そちらには「錠前屋のルネはレジスタンスの仲間」というタイトルを付けた。それら二作品は、Y氏の勧めによって、はじめて、油絵を意識してつくった、最初のアートインボックスである。うち今回は「BRIC-a-BRAC」を修理したが、機会を見て「鍵屋」のほうも、ぜひ直したいと考えている。
ちなみにY氏だが、その数年後に認知症をわずらい、以後なんの連絡もない。
存命なら優に80を超えているはずだが、どうされているのか。
2017年9月7日