「サラとワタナベさん」

 5月の陽気に誘われるように、ポツポツとギャラリー見物の客が訪れるようになってきた。
 客はたいがいスタジオ横のボロっちいドアーから入ってくる。わたしは彼らをギャラリーの中へと案内し、かんたんな説明をしたあとは、鑑賞のジャマにならぬようふたたびスタジオへと戻って時計を見る。するとほとんどの客は2〜30分ほどで見学を終え、ギャラリーから出てくる。これが普通だ。
 ところがむかしサラ・ウィローという元生徒のブラジル人女性が、な、なんと、ひとりで2時間半も見て帰ったことがあった。
 その日サラは、帰国のお別れを言うためにやってきたのだが、当時ギャラリーが出来たてのころで、彼女はまだそれを見ていなかった。
 「見ますか?」
 と尋ねると、彼女はすぐにギャラリーへと足を踏み入れ、それから1時間半、出てこなかった。もしや中で何かあったのではないかと心配になったころ、彼女はやっと顔を出し、そして
 「写真を撮っても良いか ?」
 と、聞いてきた。もちろんOKと答えると、それから更に1時間、追加で見学したのちに、やっと見学終了となった。
 そんな訳で長時間鑑賞者ランキング不動の1位がサラさんならば、来場回数での1位となると多分ワタナベさんだろう。
 ワタナベさんは先日も来てくれ、何回目ですかと問うと、4回目ですとお答えになり、えええ〜っ!!! と、思わずのけぞってしまった。
 彼は荒川区にお住まいの大学教授で、ある日散歩をしているとき、Googleマップ上に現れたGallery ICHIYOの表示に興味を惹かれて近づいて、勇気をもってそのボロっちいドアーを開けたのが、わたしを知った最初だそうだ。その後来るたびにいろんな人を連れてきてくれる私にとっては福の神的存在となり、そしてこのたびは、彼の学校の元生徒を連れてきてくれた。(下の写真、左がワタナベさんで、中央が彼の元生徒)。みなさんも一度ぜひお出かけになったらいかがでしょうか。
 https://ichiyoh-haga.com/private-gallery.html