27歳のとき、ぼくは失業していた。外で人に会うのがイヤで日なが家で模型の機関車をいじって過ごした。しかし唯一外出する先があって、それは巣鴨にある「サカツウ」という小さな模型屋だった。その店は裏路地を入った畳屋の隣にあって、店主は自分と同年代のスラッとした美青年。銀行を辞めてつい最近商売を始めたばかりだとおっしゃった。当時彼は新婚でレジ裏の小部屋に生後六ヶ月ほどの赤ん坊がいることがあって、たまにギャーギャー泣き出したりすると
「ちょっとすいません」
とか言って、慌てて店主が店の奥に引っ込んでしまう。そんな店だった。
その店には約半年通った。
いまから考えれば模型のイロハは、このとき、この店主から仕込まれたような気がする。
しかしその後ぼくも商売をはじめ、それからはパッタリ行かなくなった。ろくに買いもしない、しかも長居の客で、さぞかし嫌がられていただろうと考えると、あわせる顔がなかった。
そうして約20年が経った西暦2000年、ひょんなことから再会することに。その年新宿で開催されたある鉄道模型ショーにぼくの作品を並べることになり、ふと図面を見ると、なんと向かいのブースが「サカツウ」となっていた。
—–いやあ恥ずかしいなあ。
と、思ったものの、「相手はどうせオレの顔なんぞ覚えちゃいるまい」と挨拶もせず、ただ黙って自分のブースに突っ立っていた。そしたら向こうから突然声をかけられ非常にあせった。あんまりにもドギマギしてしまい、そのとき何をしゃべったのかは、ぜんぜん覚えていない。
その「サカツウ」の坂本憲二さんは、今は立派な店の経営者におなりになって、巣鴨にジオラマグッズを扱う大きな店を構えていらっしゃる。巣鴨といっても昔の店とは場所が違う。今は表通りに面したビルの一階で、品揃えは以前とはくらべものにならない。ジオラマ専門店としては正真正銘日本一。
というわけで、これは絶対行かなきゃマズイのだ。
だから是非行ってほしいのです。とにかくお世話になった方なのですから。
どうぞよろしく。
下がその「サカツウ」さんのホームページです。
http://www.sakatsu.jp/top/index.html
2009年4月21日