去年の夏サクラメントシティでのこと。
到着は午後8時だった。宿は予約してあったがいくら探してもホテルが見つからない。シティの道は首都高に似て慣れない者にとって巨大な迷路のようだった。やがて夜10時に。町全体が静まり返り、通りに人影はない。そんなときふと眼前の丘を見上げると頂上に「HOSPITAL」と書いたビルを発見。病院なら夜もやっているハズと道を尋ねるために車を降りて丘を登りはじめた。すると丘の中腹の駐車場に、大きくドアーを開いた白い乗用車があって、中から携帯でしゃべっている男の声が聞こえた。射殺覚悟で近づいてホテルへの道筋を尋ねると、「オレの車について来な…」と意外にも彼はぼくの車を10キロ以上もナビゲートしてくれて、親切にもホテルの玄関まで連れて行ってくれた。
10キロといえば結構な距離である。
チップとして10ドル差し出すと彼はかたくなに受け取りを拒否。 仕方なく代わりに作品のパンフレットを一枚手渡し、あっさり礼を言い、別れた。
普通はそれでおしまいだ。
もう二度と会うことはないと思っていた。
しかしその男ノヤ(Noya)が、先日ぼくの工房へやってきて、製作中の「遊郭の座敷」を見物することになったのだから、世の中わからない。彼と彼のファミリーは、香港からの帰途東京へ立ち寄り、1月12日に工房を訪れ、あとはみんなで近所の焼肉屋へ。改めてサクラメントでの礼を述べて再会を喜んだ。焼肉代はチップの10ドルよりは高かったが、カネには代えられぬ楽しいひとときを過ごした。
2009年2月4日