10月30日午後10時、乗っていた飛行機が突然ユサユサ揺れはじめた。サンフランシスコからの乗りつぎ便だったので、ぼく以外の乗客は全員アメリカ人。揺れは約15分ほどつづき、やっとおさまったころ、短いアナウンスがあった。もう安心ですよというメッセージだろうか、機長がなにかをしゃべったとたん周囲からどっと歓声があがり、よく聞き取れなかった。
翌朝7時、ホテルの部屋から通りをのぞくとただならぬ雰囲気。なんだろうと思いながらも写真を撮った。(下の写真)。やがて身支度を整えて外に出て、はじめてそれが「フィーリーズ」(フィラデルフィア・フィーリーズ)のワールドシリーズ優勝に歓喜した群集だとわかり、同時に昨晩機長が何を言ったのかがわかった。
それからの丸一日、まったくの馬鹿騒ぎを見せつけられ、とんだ迷惑をこうむった。あまりにも群集が多いのでまともに道を歩けない。レストランもコンビニも超満員。人々は常に大声を張りあげて何かを叫んでいる。へたに目を合わせたりすると、一緒に喜ぼうぜ、などと誰彼かまわず陽気に話しかけてくるので非常にヤバイのだ。町中全員がフィーリーズのロゴ入り衣装に身を包んでいて、ぼくのようなロゴなしウェアーの者は次第にいたたまれなくなってくる。
当日は午後6時から、現地クラウンプラザホテルにて、フルスティームアヘッドという大規模なミニチュアショーが開催される予定で、本当はそれまで市内見物をするつもりだった。しかしとても無理と判断。町外れの美術館で時間をつぶしてからショー会場へ向かうことに。会場は市内からタクシーで30分ほどの距離にあり、さいわい静かだった。
今回のショーは、トム・ビショップ氏の主宰ではなかったが会場にはビショップ氏の姿もあった。ミニチュアコレクター誌のバーバラさんや、かばん屋のゴメス、シーンコナリーのような顔をしたシェーカー・ワークスのケン・ビアー氏など、毎度お馴染みの顔ぶれが大勢いらっしゃり、みなさん「ハイ、イチヨー!」とか言って、気楽に声をかけてくる。アラバマから来たという、ちょいと美人のおばちゃんには突然ガバと抱きしめられ、ほっぺたをくっつけられて、背中をぽんぽん叩かれた。いわゆるハグというやつである。このおばちゃんは、ぼくを見つけると毎回必ずこれをやるのでまいる。今回を含めて計3回やられている。
そして夜中の12時、自分のホテルへ戻ると、一階のバーでは相変わらず馬鹿騒ぎの真っ最中。「イェーッ!」やら「ワオーッッ!」やらを叫びながら、バーからあふれ出た人々がエレベーターホールにまでたむろしていた。少なくともこの日、ここフィラデルフィアでは、オバマのオの字も聞こえてこなかった。
2008年11月8日