故石ノ森章太郎著作による「トキワ荘の春」(清流出版㈱)という単行本が、このたび出版された。この本はマンガではなく、マンガ家石ノ森章太郎が若き日のトキワ荘時代を振り返って、自らが珠玉の文章で綴ったエッセイ風読み物であるが、目次や奥付ページにはなんと計6枚もの拙作トキワ荘の写真が使われている。マンガの王様といわれた石ノ森氏の本に、しかも氏が生前たった一冊だけ著したというトキワ荘について語った本の中に、よもやぼくの作品が使われることになろうとは…。
もちろんぜんぶ読んだ。愉快でいてどこかしみじみとした味のある名著だと思う。
「姉が死んだ。明日が23歳の誕生日。ある年のその日だった。三歳違い。ボクは成人式とやらが済んでまだ三ヶ月目。天気は快晴だった。トキワ荘の周囲は、なにごともなく明け、なにごともなく暮れていった。町の人々はいつもと同じ日のように、ラーメンをすすり、野菜を売り、コーヒーをつぎ、自転車のペダルを踏んでいる…」
本文はこんなプロローグで始まっている。あまたあるトキワ荘本の中でも最重要な一冊。マニアはすぐさま買って読むべし。
2008年5月25日