宮沢もがきからの解放

 昨年の10月ごろ、ある方から宮沢賢治による童話3作品を立体作品化してほしいと依頼された。これがどうしてむずかしく、考えれば考えるほどむずかしく、ここ数ヶ月ずっともがいていた。このとき立体化を依頼された宮沢作品のひとつに「北守将軍と三人兄弟の医者」というはなしがあって、あらすじはこうだ。主人公である北守将軍のソンバーユさまは30年も馬に乗りっぱなしだったため体が馬に引っついてしまい離れなくなった。ひっぱがしてもらうために、彼は小高い丘の上にある病院へと向かい、馬に乗ったままズカズカと診察室へと入り込み、医者に会い、からだを馬から引き離してもらう‥。
 ま、そんなストーリー。
 そしてそれを魅力ある立体作品としてつくりあげねばならぬのだが、いくらイメージをふくらませても具体的なかたちや色が見えてこなかった。己の才能の限界を悟ったぼくはひとりのイラストレーターを助っ人として頼み、20枚ほどのイメージ画を作成してもらった。
 下がその一枚だ。
 素晴らしい絵だと思う。
 ところが、このような絵を立体化するというのがまたまた大変で、ますますもがき、もだえた。だがぐずぐずしているひまはなく、とにかく始めるしかないと腹をくくった。ちょうどそんなとき、突然依頼主側に事情が発生し、待ったがかかった。これをがっくりというべきか、ほっとしたと捉えるのか、いずれにせよこのときをもって約二ヶ月におよんだ「宮沢もがき」からは無事解放されることとなった。

 以上が宮沢賢治文学立体化計画の顛末である。もしもこの仕事がスムーズに進んだ場合、逐一写真を見せながらここに紹介するつもりでいた。だがストップしてしまった以上、あえてお伝えすることもないのでただ黙っていた。
 ところが‥
 「賢治ものは、その後どうなりました?」
 と、先日ある親しい方から問われ、はじめてこの話題を取りあげることにした。
 このたび立体化を依頼されていた作品は「北守将軍」のほかにあとふたつ、「マリヴォロンの少女」と「銀河鉄道の夜」だった。どれもみなむずかしい。だがそのうち機会をみて再度立体化に挑み、改めてなんらかの決着をつけたいと考えている。

丘の上へと向かう北守将軍
絵: ぶりお


2007年2月19日