最近「墓の作品」をつくった。つくったと言うよりも、旧作を大幅に改修し、新作と呼んでもいいような作品に作り変えたと言ったほうが正しいのかもしれない。
僕が最初にエキシビションを開催したのは渋谷パルコのロゴスギャラリーで、だった。このときにつくったいくつかの作品の中に「寒い朝」と題する墓の作品があった。非常に重たい鉄製ベースがついた作品で、このときにはいくつかのそんな作品を並べた。しかし年月のあいだにはそれら鉄製ベースの作品は大方売れてしまい、たったひとつだけ残った鉄台作品が寒い朝だった。いま見るとたいした作品ではないのでお恥ずかしい限りだが、捨ててしまうのももったいないと思い、長いことイエローサブマリンの棚に置いてあった。ご覧になった方もいらっしゃるだろう。へんな地形の、へんなかたちをした鉄製の台の上に、二基のお墓と、その横に電柱が一本つっ立っているだけというシンプルな作品だ。しかし墓というモチーフが年配客の感性にフィットするのか、以前からおもしろがられ、それなりに人気があった。そして先日、その作品を買いたいとおっしやるお客様が、ついに現れ、店から問い合わせの電話が入った。しかしなにぶん古い作品である。
「売ってもよいが、いろいろと修理をしてから引渡したいので、その旨をお客さまにお伝えください‥」
と、僕はそう答えた。着想は悪くないのだが、当時は技術が未熟だったため、いかにも幼稚な出来栄えで、とてもそのまま引き渡す気にはなれなかった。客は、引き取りはあとでもかまわないと言い、代金だけを置いて帰ったという。
そんなことから、大至急その作品「寒い朝」を修理せねならぬ義務が生じ、さっそくいったん棚から引き上げたうえで、改めてじっくりと眺めてみた。すると、これは修理程度では、とても済まないことがだんだんとわかってきた。地形はまるで「イナバウアー」のように反り返っているし、墓の配置自体、まったく気に入らない。仕方がないのでへんなかたちの鉄製ベースはそのまま残し、それに合わせてもう一度新たに地形を作ることにした。次には大きな木を一本作って中心に据え、二基だった墓を四基に増やすなど、全体的な構図までを含めて、まるっきりぜんぶを作り直すことになったのである。最初はだらだらと、あとでは真剣に取り組んだ。以前の作品が持っていたムードは変えずに、しかも全体的な形状も変えず、コンテンツのみレベルアップせねばならぬという、実にしばりの多い仕事だった。しかしである。結果として、非常に気に入った作品に作り変えることができ、ひさびさの大満足を得ることができた。それは5年ぶりに作った、ストラクチャー作品の「快作」と言ってもよいと思う。貧しくて、侘しくて、悲しくて、むなしくて、粗末で、暗くて、沈鬱で、空虚で、投げやりで、その上やぼったいといういいことずくめ。最近まれに見るお気に入りの一作である。
気を良くした私は、生まれて初めて自分で自分の作品を撮影するという蛇足行的為にも及び、下のような写真を撮った。そしたらである。どういうわけかそれも非常に気に入ってしまい、当サイト・ストラクチャーセクションに急遽掲載することにした。スライドショーの前半に置いた英題名「A Graveyard」(あるひとつの墓地)というのが、その作品である。
ぜひ御覧いただきたい。
2006年6月17日