トキワ荘講演終了

 心の底からおびえていた千早会館での「トキワ荘講演」が、とうとう始まってしまい、そして二時間後に、終わった。危惧していたスピーチは意外や意外、割と好評だった。終了後、何人もの客がぼくのテーブルを取り巻き、口々に「面白かった」と感想を述べ、ツーショットでの写真撮影や、著作本へのサインを求められた。キツネにつままれたような気分である。
 むかしから自分は「はなしベタ」と固く信じ込んでいる。そのうえ声も悪いので人前でしゃべるのは死ぬほどイヤだ。なので有料講演の開催などという大それたことを自分から言いだすわけがない。まったく別の案件をお断りするために千早を訪れたとき、トキワ荘のことをしゃべってもらえるかと問われ
 「それなら、少しぐらい‥。」
 と、答えたのが運の尽き。
 少しぐらい‥が、だんだんと大きなはなしになっていった。
 しゃべることへの恐怖から講演前夜はけっこう酒を飲んだ。だが頭は冴える一方で、いつまでたっても眠れず、夜が明けるのが怖かった。しかし無情にも朝になり、刻一刻とその時が迫ってきた。処刑台はもう目の前だ、ジタバタしたってはじまらない。そのころになってやっと開き直りの心境が芽生え、失敗したって別段死ぬわきゃないという気になった。そうして極力気楽にしゃべったのがよかったみたいだ。
 ご来場いただいたみなさんありがとうございました。
 千早会館のみなさんたいへんお世話になりました。
 いまはただただホッとしてます。

 本講演の正式タイトルは「立体画家/はがいちようが語るトキワ荘のイマージュ、小さな世界に込められたノスタルジー」です。そして千早会館とは「豊島区千早地域文化創造館」のことです。いただいたリストによると当初聴衆者は31名だったが、当日更に数名増えたように思う。コロナでなければもっとたくさんの椅子を並べられたのにと担当者は残念がった。